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選択的夫婦別姓制度の議論に見る意思決定の課題

松田 幸裕 記


最近、情報番組などで「選択的夫婦別姓制度」について取り上げられることが多くなっているのを感じます。

この「選択的夫婦別姓制度」、皆さんはしっかり理解できていますか?正直、私は十分理解できていません。法的に夫婦別姓にできないことによって困っている人がいるということはある程度理解しているつもりですが、「この制度に反対している人は、具体的にどういう理由で反対しているのだろうか?」、「夫婦同姓で旧姓の通称使用が法的に認められる形も選択肢としてあるようだが、それではダメなのか?」、「親が夫婦別姓になったとして、その子供が物心ついた頃に姓を選択できるようにするのか?」など、細かく考えるとわからないことだらけです。

それなのに、賛成する側は「グローバルでも当たり前になってきている」などで主張し、反対する側は「家族の一体感が弱まる」などお互い異なる論点で主張し、民間で採られるアンケートでもその程度の理解度で答えさせ、「世論はどちらに傾いているか?!」と一喜一憂しているように見えます。

このテーマは完全にITの話から逸脱していますが、ITの導入や中長期計画などを含め意思決定はどのような形で行われるべきか?という観点で、この問題に触れてみたいと思います。

反対派の主張は?

いろいろなWebサイトで選択的夫婦別姓制度について触れられていて、反対派の意見についても書かれています。これが真実なのか少々疑問ですが、これらを見る限り反対派の主張は概ね「公的制度として定着している夫婦同姓を壊すべきではない」、「家族の一体感が損なわれる」などのようですね。正直、もう少し仕組み的な観点で夫婦別姓の課題を不安視しているのかと思っていました。

3組に1組の夫婦が離婚しているという現状で、家族の一体感が損なわれるという主張は少々説得力に欠ける気はしますが…。

夫婦別姓にして困ることはない?

「選択的夫婦別姓制度の具体的な内容は?」と思って調べてみましたが、まだ採択されているわけでもないため、確立されたものは無さそうです。

【法案提出】超党派議員立法「選択的夫婦別姓法案」他2法案を衆議院に提出

2年ほど前に超党派でまとめられ提出された法案です。これを見ると、夫婦別姓の子供の姓は生まれる時に夫婦で協議して決めるようです。その時点で揉めるパターンは多くありそうですが、その場合は家庭裁判所の審判を仰ぐそうです。ただ、、、揉めている間、その子の姓はどうなるのでしょう。また、平等にするために「第一子は母と同姓、第二子は父と同姓」などは可能なのか、子供が物心つく年齢になって「私はこっちの姓の方がいい」と言ったら変えられるのでしょうか(夫婦は選択できるのに子供は選択できない、というのも問題ですよね)。また、別姓にした時の戸籍はどうなるのでしょうか(夫婦同姓の課題の一つとして戸籍変更の手間なども挙げられているため)。

細かく見ていくと、選択的夫婦別姓制度は決めるべきことが結構多い気がしています。

男性が女性の姓を名乗ることはできる?

いろいろと考えているうちに、「そういえば、なぜ結婚すると女性が姓を変えるのが一般的なの?」という疑問が生じてきました。「婿養子」という言葉がありますが、男性が女性の姓を名乗る場合は婿養子に入る必要があると思っている人が多いかもしれませんが、調べてみた限りでは婿養子に入らなくても男性が女性の姓を名乗ることができるそうですね。

そう考えると、もう一つの選択肢として、「結婚すると女性が姓を変える」という凝り固まった考え方を排除するというのもあるかもしれないと思いました。

このように、大きな選択肢として「夫婦同姓で旧姓の通称使用を法的に認める」、「男性が女性の姓を名乗る際の壁を取り去る」、「選択的夫婦別姓制度を確立する」などがあり、選択的夫婦別姓制度の中でも制度を細かく考えてみるといくつかの選択肢が出てくると思います。これらを横並びにし、それぞれの特徴を整理し、網羅的・構造的にしたうえでようやく適切に議論ができるのではないかと思うのです。

この件のみでなく、企業・組織における意思決定においても、思い付きやバイアスだらけの議論にならないよう、適切に論点を可視化して進めていくべきだと改めて思いました。