松田 幸裕 記
ダイハツ工業が12月20日、国の認証取得の不正問題に関する調査結果について発表し、174個の不正行為があったことを明らかにしました。また、国内外で生産中の全てのダイハツ開発車種の出荷を停止しました。
ITに関係のある話ではありませんが、私自身も日頃健全な経営や組織風土を意識している中で無関係とは思えない話だと感じたため、本投稿ではこの不正問題に触れたいと思います。
なくならない不正問題
今回の不正問題のニュースを聞いて、「また自動車の不正問題か…」と感じました。それは、2016年に発生した三菱自動車の燃費不正問題がすぐに思い出されたからです。4車種の軽自動車で燃費をよく見せるための不正を行っていたことがわかり、株価がストップ安になるなど、大きな影響が出ました。それ以前にも三菱自動車ではリコール隠しなどもあり、さらに2016年の時は4車種にとどまらずその後多くの車種で不正問題が発覚したため、一時的なダメージでは済まされない問題となりました。
その不正問題の数年前、あるテレビ番組で軽自動車業界の熾烈な競争についての話を見たことを、思い出しました。どう考えても技術的に無理、という目標を掲げつつ、試行錯誤、チャレンジの末に目標を成し遂げるという話が、ドキュメンタリで放送されていたと思います。このような厳しいプレッシャーを生じさせる環境が不正の背景にあるのだとすると、この三菱自動車における不正と今回のダイハツ工業の不正は構造的な問題として関係しているかもしれませんね。
本質的には多くの会社に潜む問題
これらの問題について、会社の体質に問題があることは否定できないでしょう。ただ、法に触れるか触れないかは別として、業務上で「倫理的な」不正を犯してしまう場面は、実は多いのではないでしょうか。不正の根底にある組織内での心理的な動きや行動は、多くの組織が共通に持つ性質なのではないか、と思ってしまうのです。
高い目標を組織の上層部が掲げます。それは徐々に下に落ちてくる中で「目標」ではなく「ノルマ」に変わり、プレッシャーと共に現場に届きます。中間管理職レベルは、毎月、毎週のように報告が義務付けられ、達成状況が悪ければその場で詰められます。もう二度とこんな詰められ方はしたくないと思った中間管理職は、現場に「とにかく達成しろ!」と落とし、マイクロマネジメント的な管理を行います。こうなると、意義や大義などを脇に置いてしまい、このノルマを達成するために効果があるであろうことはなんでも試します。
- 今期の売り上げを達成するために、「今月中に買ってくれたら安くします」とたたき売りを仕掛ける。
- 顧客満足度の目標を達成するために、満足度アンケートでよい評価をつけるようにお客様にお願いする。
- 社内でKPI(重要業績評価指標)になっている数字を達成するために、本来の意図と異なる行動で数字を上げようとする。
このような行動は、多くの企業で起こっているでしょう。そう考えると、もちろん法的に不正とされる行為は大問題ですが、その根底にある性質については多くの企業が共通して持っているものかもしれず、決して他人事にして通り過ぎてしまってはいけないのではないかと思うのです。簡単に改善できるものではないことは承知していますが、意識しておきたい2つの点を挙げておきたいと思います。
問題を報告させる理由
昔読んだ書籍「プロフェッショナルマネジャー」には、「問題を報告させるのはライン・マネジャーを個人的に譴責しようとしているのではなく、手助けをしようとしているのだということを理解してもらうことが重要。」とあります。言うは易く行うは難しですが、とても大切なことです。上層部が適切に意思決定を行うために現場を可視化することは重要ですが、その目的・方法を誤ると、行き過ぎた可視化の副作用が出ることを肝に銘じないといけない、と感じています。
コブラ効果
昔のインドでの話で、コブラを撲滅するために「コブラの死骸を役所に持ち込めば報酬を与える」という制度を設けましたが、報酬目当てでコブラを飼育して死骸を持ち込む人が出てきてしまい、逆にコブラが増えてしまったという話です。目標を設定しても、本来の目的を見失ってしまうと逆に問題を悪化させてしまう、ということを「コブラ効果」といいます。ダイハツ工業の不正も、「安全な社会をつくる」という目的を見失って「認証取得」という目標達成に邁進してしまったのではないでしょうか。
弊社では、「人間に上も下もない」という考え方を大切にしています。また、数字での目標設定は行っていません。こうすることで不正が起きる根源をなくしているため、不正が起きる可能性は低いと思っていますが、その分「目的に向かって邁進する」というパワーが少々欠けているかもしれません。組織を理想の姿に近づけるのは、なかなか難しいものですね。
なかなか考えるタイミングが少ないかもしれませんが、この機会に改めて、「私たちの組織はなぜ存在するのか」「どのように社会に貢献するのか」など、組織の存在意義や理念について考えてみるべきではないか、と思いました。