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「DX白書 2023」から今を読む その1 ~日米の業務におけるサイクルの違い~

松田 幸裕 記


IPA(独立行政法人情報処理推進機構)から「DX白書 2023」が公開されました。元々「IT人材白書」として定期的に公開されていたものが、範囲を広げて2021年からは「DX白書」という形で公開されるようになりました。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組み状況などについてのアンケート調査結果が載っていますが、アンケートにおけるDXの認識が一致しているのかは少々疑問を感じます。本白書ではDXについて、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義していますが、最近では単なるIT化を「DX」と呼んでしまっている例もよく見かけます。アンケートを行う際に回答者へこの定義がしっかり説明されたのか、回答者はこの定義をしっかり認識したうえでアンケートに回答したのか、そのあたりはわかりません。そのため、DXの取り組み状況などについてのアンケート結果を素直に受けてコメントすることは避けたいと思っています。

「DX白書」なのにDX関連のコメントを控えてしまうと、コメントがなくなってしまいそうですが…その中でも気づきにつながる内容が多くありました。本投稿では表題にある通り、「日米の業務におけるサイクルの違い」について触れたいと思います。

継続的な改善の不足

「DX推進プロセスの達成度」というアンケート結果があります。

DX推進プロセスの達成度(DX白書 2023より)

これを見ると、各項目の中に「継続的な改善」、「継続的な価値創造」、「自律性と柔軟性を許容するアジャイルな変革」、「目に見える成果の短いサイクルでの計測と評価」など、継続的な行いを示すものが多くあることに気づきます。そしてすべての項目において、米国と比較して日本は「達成していない」の割合が大きいようです。

継続的なサイクルという意味では、日本では「PDCA(Plan・Do・Check・Action)」が有名で、米国ではおそらく「OODA(Observe・Orient・Decide・Act)」が主流だと思います。この違いが上記のようなアンケート結果の違いを生んでいるのかもしれませんが、「PDCA」の要素をよく眺めてみると、「日本ではPDCAが重要と言いつつ、CA(Check・Action)を行っておらず、PD(Plan・Do)だけを行っているのではないか?」とも思えてきました。

以前の投稿「「失敗から学ぶ」の難しさ」で触れましたが、振り返って改善することが何となく「ネガティブ」と捉えられる傾向にあるため、CA(Check・Action)が実施されづらいのかもしれません。そう考えると、日本では継続的な改善のサイクルを定着させるために、「振り返る」をもう少し意識した方がいいということになりますね。

評価頻度の不足

似たような話になりますがもう一つ、「顧客への価値提供などの成果評価の頻度」というアンケート結果があります。

顧客への価値提供などの成果評価の頻度(DX白書 2023より)

顧客への価値提供などの成果について、どのくらいの頻度で評価しているのか尋ねた結果を示したものですが、ここでも米国と比較して日本は「評価していない」の割合が大きいようです。

以前の投稿「意思決定・合意形成を最適化するために」で触れた通り、意思決定の最後は客観ではなく主観で行われますが、それまでの合意形成は適度な客観が必要です。上図にあるような各種項目を客観的に見ていない状況では、最終的に主観で行われる意思決定も適切なものになりません。前述の「継続的な改善」を行うためにも、客観として扱えるデータを整備することが重要だと思います。

私自身は海外で働いたことがなく、日本にある外資系企業で働いた経験があるという程度ですが、私が勤務していた外資系企業では確かに評価のためのデータ可視化が進んでいました。成果主義のため、目標と成果に関係する数字は常に意識し、活動していました。例えば「コブラ効果」のような用語にもある通り、目標として設定した数字、数字を意識しすぎることなどによる弊害もあるため、必ずしも米国のやり方が正しいとは言えませんが、日本企業においてももう少しデータを可視化し、継続的な改善を行うことを意識した方が良いのではないかと、本白書を読んで感じた次第です。