· 

日本におけるIT人材不足の原因を探る ~その3 ジョブ型雇用は日本における問題を解決できるのか?~

松田 幸裕 記


新型コロナウイルスの感染が再度広がりを見せているようです。このまま収束していくかもという期待もありましたが、簡単には収束できそうにないですね。

専門家は「ワクチン接種や感染による免疫が弱まってきている」、「夜間の繁華街の人出増加」などを原因として推測しています。「ワクチン接種や感染による免疫が弱まってきている」という推測は、「最近の新規感染者は、前回のワクチン接種または感染からどのくらい経過して感染したのか?」を継続して確認していけば、ある程度わかります。これが明確になればワクチン接種の効果も可視化できると思うのですが…やはり「データが無ければ新たに取りに行く」という考え方が必要な気がします。

本題に入ります。以前の投稿「日本におけるIT人材不足の原因を探る その1その2」で、IT人材不足について触れました。これらの投稿では、各企業で優秀な人材の育成ができておらず、それによって結果的に人材不足が深刻化しているという側面もあるのではないか?という話をしました。本投稿では、優秀な人材を獲得するため、そして優秀な人材へと育成していくための方法として最近よく取り上げられている「ジョブ型雇用」について触れてみたいと思います。

「日本もジョブ型雇用にシフトすべき」という話をよく聞くようになりました。本投稿では、ジョブ型雇用のメリット、日本でジョブ型雇用へシフトする上での課題などについて考えてみたいと思います。

ジョブ型雇用のメリット

「ジョブ型雇用とは?」については、Webで検索するとわかりやすく解説されているページが山ほど見つかりますので、そちらに譲りたいと思います。一般的にジョブ型雇用のメリットとして言われているのは、「求めている人材を確保しやすい」、「内部の優秀な人材の維持がしやすい」、「内部の人材にスキルアップの意識が生まれる」などがあるようです。これだけを見ると、日本でもどんどんジョブ型雇用を導入していくべきと言えますね。スキルアップの意識が生まれ、優秀な人材が増え、その人材の流動性が高まり、という好循環が生まれれば、日本の未来は輝かしいものになりそうです。

日本がジョブ型雇用へシフトしていく上での課題

ただ、日本でジョブ型雇用を導入すれば本当にこのような好循環が生まれるのか?という点については、少々疑問を感じます。確かに、各ポジションの役割や評価基準を明確にし、その基準をクリアすれば報酬が上がっていく、というのは社員のモチベーション向上に少なからずつながるでしょう。しかし、最近では日本でも年功序列が崩れてきていて、能力が高ければ若くして出世する人も少なくありません。そう考えると、ジョブ型雇用を導入しなくても適切に評価・昇給できれば社員のモチベーションは上がるはずです。

私の感覚であり、間違っているかもしれませんが、欧米のジョブ型雇用では「パフォーマンスが低い人材を降格、あるいは解雇する」という行為もセットになっていることで、この仕組みの効果を高めているのではないかと思います。人間心理としては「給与を上げたい」より「給与を下げたくない」という欲求の方が上回るという「損失回避」という性質がありますし、解雇ともなるとマズローの欲求5段階説でいう「安全の欲求」あるいは「生理的欲求」という下位の欲求すら満たされない状態になるため、そのような状況を回避するために一生懸命働き、一生懸命スキルアップするでしょう。

しかし日本では、法律で雇用が守られていて、解雇はおろか降給もハードルが高い行為とされています。このような制約がある中でジョブ型雇用を導入して、効果はどのくらいあるのでしょうか。むしろ、ジョブを定義することによって「あなたの仕事はこれです」と役割を固定化することによって、役割の細分化が進み、「私はこれしかできない」という人材が増えてしまっても問題です。

理想的な仕組みは?

私は、ジョブ型雇用を導入するか否かによらず、成果主義自体は必要だと思っています。一生懸命に働いて成果を出した人、スキルアップして組織に貢献した人たちに、その分報酬として報いることはごくごく自然なことであり、「一生懸命頑張って成果を出している人も、怠けている人も、報酬は同じ」という方がむしろ不自然だからです。日本では降給は難しいですが、貢献した人に報いるということはできると思います。ただ、降給や解雇を伴わないジョブ型雇用を導入することで日本における多くの問題を解決できるのかという点は、前述のとおり個人的には少し懐疑的です。

それよりも今必要なことは、企業理念やパーパスなどを皆が心に刻み、理想に向けて皆が団結し、利他の精神をもって邁進できるような環境、風土を構築していく努力ではないかという気がしています。これができれば、内部から見ても外部から見ても魅力的な組織となり、前述のジョブ型雇用のメリットと言われている「求めている人材を確保しやすい」、「内部の優秀な人材の維持がしやすい」、「内部の人材にスキルアップの意識が生まれる」も実現できます。

このような理想をつくりあげることは簡単ではなく、弊社でもまだ自信をもってできているとは言えません。ただ、皆が信頼し合い、共通の思いを胸にワクワクして働ける環境をつくることをあきらめず、日々試行錯誤していくことが重要ではないかと思っています。