松田 幸裕 記
新型コロナウイルスの感染がまたしても拡大しています。現状の6都府県に加え、埼玉、千葉、神奈川、愛知への「まん延防止等重点措置」の適用が決定され、10都府県にまで拡大されました。
昨年2月の「今後1~2週間が瀬戸際」と言っていた自粛要請以来、長期戦のストーリーがなく、データも不十分で、「とりあえず」の対策を続けてしまっている状況に見えます。
そのような中、二階幹事長が五輪中止も選択肢にあると発言したことを多くのメディアが取り上げ、話題になりました。各メディアからは「問題発言」という解釈で扱われていますが、、、「コロナ感染が拡大した場合」という仮定での質問にそう答えただけですよね。東京五輪組織委の森元会長は「コロナがどういう形であろうと必ずやる」と言って批判され、二階幹事長は「中止という選択肢もある」と言って批判され、「仮定のことは答えられない」と言えばそれはそれで批判され、、、こういう揚げ足取りが多いこともあって、政治家が質問にストレートに答えないようになってしまったのかもしれませんね。
私たちはこういう報道に左右されることなく、事実を正確にとらえ、何が善で何が悪なのかを自身でしっかり考えて判断することが求められていると強く感じます。
本題に入ります。以前の投稿「ITは雇用を創出するのか?雇用を奪うのか? その1/その2/その3」で、ITと雇用の関係について触れました。先日ハーバード・ビジネス・レビュー2021年3月号「特集:人を活かすマネジメント」を読みましたが、このテーマに関連することが随所に書かれていたため、いくつかのポイントをピックアップしつつ、課題認識とあるべき姿について考察してみたいと思います。
ポイント1:科学的管理法とエンパワーメント
本特集内のいくつかの論文にて、2つの経営アプローチについて触れられていました。
テイラーの科学的管理法は、1900年代初頭にフレデリック・テイラーが提唱して始まった経営のアプローチです。作業をより効率化するためにすべての作業を標準化し、現場の業務の中で都度判断する必要性をなくし、従業員は標準化された業務をひたすら実行するというものです。
もう一つがエンパワーメント(権限委譲)という考え方です。従業員の心理的・社会的ニーズに注意を払い、従業員へ権限を委譲し、従業員の創意工夫によって成果を上げるというものです。
元々は前者の科学的管理法が経営における主な考え方として浸透されていましたが、徐々に後者の考え方が取り入れられてきた、というのが大きな歴史の流れになります。
ポイント2:技術進化による科学的管理法の復権
前述の通り、徐々に従業員への権限委譲というアプローチが取り入れられてきましたが、その中でも少なからず科学的管理法の要素はどの企業も取り入れていると思います。これが最適なバランスで取り入れられていることがベストなのかもしれませんが、AIなどの技術進化によって意思決定や監督をシステムが担うことになってくると、再び従業員は「システムが決めたことに従い、業務をひたすら実行する」という役割を担えばよいという存在に戻ってしまいます。テイラーの時代には業務の標準を決めるのは専門家・エンジニアでしたが、現代ではAIがそれを担うことになります。さらに、「ひたすら実行する」という役目の多くも、システムに置き換えられていく傾向にあります。
ポイント3:エンパワーメント重視の企業は高賃金
論文「現場の潜在力を引き出すマネジャーの心得」には、「従業員に対するエンパワーメントで先頭を走る企業は、平均を上回る賃金を支払っている。特に気前がよいからではなく、従業員が並外れた価値を創造しているからだ。」と書かれています。うまく従業員への権限委譲を実施できれば、その効果は大きく、そこにまた新たな雇用が生まれるのだと思います。
雇用を生み出す組織であるために
これら3つのポイントから、組織として、そして個人として、いくつかのことが言えそうです。
まず、単純作業に従事していると、ITなどの技術進化によって仕事を奪われるリスクは高まるという点です。よって、従業員は業務の中で日々創意工夫をし、より高い成果を出していく必要があります。これができなければ、低賃金での重労働、あるいは職を失う等、苦労する道を歩むことになってしまいます。組織としてはここを促進していかなければ競合に駆逐される可能性もあるため、個人としても組織としても意識が必要です。
さらに、今までの経験の延長上にある意思決定なども、ITに置き換えられる可能性があります。人は日々考えて、今を壊し、新たなものを創り上げていく、そのくらいの創意工夫が必要になってきます。
創意工夫を業務の中で行っていくためには、それを促進する環境が必要です。権限を委譲し、「自分で決めていいんだ」という文化をつくる必要があります。また、学習する組織の中で個々人が関わり合いを持ち、気付きをぶつけ合い、創意工夫して成果を上げる、そんな仕組みを構築していく必要があります。
このような世界を実現するために、効果的にITを活用し、相乗効果を出していく必要があります。ITの進化は止まりません。ITの進化に追われ、自らが強くなるためにITを活用する、、、不思議な関係ですが、この関係は長く続きそうです。最適な関係をこれからも試行錯誤していきたいと思っています。