松田 幸裕 記
3月21日で1都3県の緊急事態宣言を解除することが決まりました。
未だ十分なデータが無く、十分な事後検証も行われず、適切な意思決定が困難な状況が続いています。このコロナウイルスの問題は、医学や経済学の知見はもちろん重要ですが、実は人間心理が最も重要なポイントではないかと思っています。そう考えると、人間の心理や行動をデータで調査してきたデジタルマーケティングの権威のような方々に協力をお願いしてみた方が、データをうまく活用した適切な意思決定方法も導き出され、打開策も見いだせるのかもしれませんね。
経済を動かせば医療が逼迫し、経済を止めれば飲食業や観光業、非正規雇用者への影響が大きいという状況で、感染防止と経済を両立できない状況ですが、個人的には「国民が少しずつ我慢して外食ではマスク会食または黙食をすれば、両立も可能なのでは?」と思ってしまいます。我々の「大人数で飲みに行けない」や「マスク会食または黙食をする」は、コロナ患者を受け入れている医療従事者や多大な経済的被害を受けている飲食・レジャー・イベントなどの従事者から見れば、我慢のうちに入らないのではないかと思うのです。皆が少しずつ我慢して協力し合える社会、できないものですかね…。
今回も前置きが長くなりましたが、本題に入ります。以前の投稿「「with/after コロナ」におけるワーク・フロム・ホームを考える その1/その2」では、ハーバード・ビジネス・レビュー2020年11月号の特集「ワーク・フロム・ホームの生産性」を題材に、ワーク・フロム・ホームにおける業務の生産性について考えました。「その2」にて「関わり合い」について触れましたが、軽く触れた程度でしたので、本投稿で少し整理してみたいと思います。
「関わり合い」の減退を招く企業の取り組み
企業での取り組みにおいて、やり方を誤ると関わり合いの減退を招いてしまうものがいくつかあると思っています。本投稿のタイトルにもあるワーク・フロム・ホームはその代表格と言えます。会社に集まるタイミングが少なくなるわけですから、何も対策をしなければ関わり合いは自然に減退していきます。
また、フリーアドレスなども同様です。フリーアドレスを狭い範囲で、またはルール無しで行うと、自然と席が固定化されてしまい、フリーアドレスでなくなります。かといって拾い範囲でかつ「前日と同じ席に座らない」などルールを設けて本格的に行ってしまうと、近くに親しい人がいない状態になることも多く、そこに会話が生まれにくくなります。
さらに、個人成果主義なども行き過ぎると関わり合いの減退を招く危険性があると思います。チームで成果をあげようという意識より、自分自身の成果や評価に意識が向いてしまうと、自然に関わり合いは減っていく可能性がありますので、注意が必要です。
以下では、関わり合いの減退が与える影響について、列挙してみたいと思います。(一つひとつを丁寧に説明してしまうと冗長になってしまうため、簡潔に説明します。)
影響①:暗黙知交換や形式知化の欠如
一橋大学の野中郁次郎教授が提唱したSECIモデルによると、「共同化」→「表出化」→「連結化」→「内面化」という4つのプロセスを経て、暗黙知から形式知へ変換され、そしてさらに新たな暗黙知が生まれていき、組織の知識創造が行われていくとされています。関わり合いが減退してしまうとこのサイクルが途絶えることになり、知識創造が促進されず、イノベーションの停滞などにもつながります。
影響②:トランザクティブ・メモリの欠如
組織の一人ひとりが、組織内の「誰が何を知っているのか」を知っていることを、トランザクティブ・メモリと呼びます。これこそが組織の知であり、組織力に大きな影響を与えると言われています。関わり合いが減退してしまうと、「誰が何を知っているのか」もわからなくなり、結果として組織の知の減退、そして組織力の低下につながってしまいます。
影響③:自身の強味の自覚や強化の欠如
関わり合いの中で「自分はこの領域に強いのか!」という認識を持つことができるようになります。自分自身のアイデンティティ(強み、能力、特徴など)を認識できると、強みをさらに磨いてみんなの助けになりたいという意欲が生まれます。そして更に関わり合いが促進、というサイクルに発展するのですが、関わり合いが減退してしまえばこのサイクルも途絶えてしまい、個々人の成長の停滞につながります。
影響④:役割と役割の間に落ちる仕事の放置
最近は役割の細分化が進んでいて、役割と役割の間に落ちる仕事も多くなってきているのではないでしょうか。そのような仕事も、関わり合いが多い環境では利他的な気持ちも芽生え、「これ、私の方で対応するね」など声を掛け合って解決していけますが、関わり合いが減退した環境では間に落ちた仕事の存在に気付かず、また気づいても放置されることが多くなるでしょう。
影響⑤:ソーシャル・キャピタルの欠如
ソーシャル・キャピタルとは、「人と人とがつながり、関係性を維持することで得られる便益」であり、これが組織の成果を高めると言われています。ソーシャル・キャピタルは暗黙知の交換に効果的と言われていますが、関わり合いが減退してしまえばソーシャル・キャピタルが欠如していき、知の創出も減退していくことになります。また、人と人との関係性も維持しづらくなり、孤独感の増幅、離職率の増加などにもつながってしまいます。
以上、関わり合いの減退が与える影響をいくつか挙げさせていただきましたが、だからと言って「ワーク・フロム・ホームはやめたほうがいい」、「フリーアドレスは危険」と言っているわけではありません。ITをうまく活用することで、関わり合いの減退を防ぐことは可能です。しかし、この問題を軽視している企業が多いと感じるため、改めて関わり合いの重要性に触れてみました。今一度これらのことを意識し、ワーク・フロム・ホームに関わる自社のITを見直してみてはいかがでしょうか。