松田 幸裕 記
1都3県での緊急事態宣言が開始されて1か月になります。新規感染者数は減少してきましたが、この先が不安ですね。ワクチンによる効果が出るのは半年以上先になるかもしれず、それまでの道筋が見えていません。一旦ある程度まで感染者数を抑えたうえで「実効再生産数を1未満にする行動」にシフトすればいいと思うのですが、、、十分なデータが蓄積されていないためか、そのような議論は残念ながらされていないように見えます。ワクチンが出回るまではハンマー&ダンスしかなさそうですね…。
そんな中、新型コロナ接触確認アプリ「COCOA」に不具合があり、9月下旬以降Androidでの通知がされていなかったというニュースが流れました。IT屋としては、「メインの機能でなぜそんなことが???」と不思議でなりません。今一度プロセスの見直しが必要ですね。一方で、コメンテーターや街中のインタービューで「ありえない!」などと怒っている人を見ると、少し違和感を覚えます。せっかくCOCOAを開発したのに、国民は協力せず、未だダウンロード数は30%にも満たない状態ですよね。メインの機能の不具合を見落としていた政府側、利用に協力しない国民、お互い様だと思うのですが。
今回も前置きが長くなりました。前々回の「2021年、ITを俯瞰する その1 ~SIerの衰退は今後進むのか?~」、および前回の「2021年、ITを俯瞰する その2 ~なぜクラウド化が進んでもSI費用は下がらないのか?~」では、新たな年の始まりということで一旦立ち止まって「今、ITで何が起きているのか?」を俯瞰し、技術進化とSIの関係について考えてみました。本投稿では、「価値を生み出すITとは?」について考えてみたいと思います。
企業ITは価値を生み出しているのか?
企業のITは性質の異なるいくつかの要素で成り立っていますが、ここではいくつかの特徴的な要素をピックアップして「価値を生み出しているか?」を考えてみたいと思います。
まずは「基幹系システム」です。「基幹」というくらいですから、ビジネスの中心に位置づけられ、これが無いとビジネスが成り立たない、なくてはならない存在が「基幹系システム」です。基幹系システムのリプレースでは高額な費用が投じられ、複数年にわたるプロジェクトになることも多いです。しかし、、、基幹系システムによる経営の可視化、そこからくる意思決定の迅速化、差別化につながる独自のビジネスプロセスの実現など、基幹系システムによって付加価値が得られている企業は多くないように思えます。言い方は悪いですが、「無くてはならないけど、高額な割にさほど価値を生んでいない金食い虫」になってしまっているパターンもあるのではないでしょうか。
続いて挙げたいのは「情報系システム」です。「情報系システム」はグループウェアなどが該当し、主に非定型業務をサポートするものと言えます。適切に導入・活用されれば、非定型業務の効率化のみでなく、組織の知の蓄積、そこからくる組織力向上なども実現できますが、、、現実はそんな甘いものではなさそうです。
原因は一つではなく、いろいろな要因が絡み合って「価値を生んでいない」という結果につながっていると思いますが、そのうちの主な一つを挙げると、「現行にとらわれすぎ」という問題があると感じています。どうしても現行環境が既成概念として根付いてしまうためか、せっかくのシステム刷新でも「現行のシステムでできることができるように」が命題になってしまい、結果として「システムを入れ替えただけ」ということになる場合も少なくありません。この問題は基幹系システムも情報系システムも共通して見られるものです。エンドユーザーが「今できているんだから、新しいシステムも当然できるでしょ?」と主張し、そのような主張を聞き続けてきたことで既成概念として染みついてしまっている情シス部門、そして同じく、情シス部門からの声を聴き続け、既成概念として染みついてしまっているSIer。この既成概念の連鎖はかなり強力です。
価値を生み出すためには?
どうすれば価値を生み出すITにしていけるのでしょうか?皆さん反論もあると思いますが、私自身の考えをいくつか書かせていただきます。
一つ目は、「現行にとらわれ過ぎない」ことです。「そんなの無理に決まってる」という声が聞こえてきそうですが、、、「とらわれない」ではなく「とらわれ過ぎない」であれば無理でもないと思いませんか?現状、SIerが要件定義で主に気にすることは、「現在の業務プロセスやツールの使い方」と「新しいツールの機能」です。ただ、せっかくシステムを入れ替えるのですから、「現在」を一旦忘れてみて、「どういう世界をつくりたいか?」を考えたいですよね。グループウェアの導入などで新しく導入するグループウェアの機能説明などが行われると、「現行ではこういう機能があるが、これも同じことができる?」という話が多く出ます。それはそれで重要なこともありますが、「システムを入れ替えただけ」にならないためにも、別の視点として「どういう世界をつくりたいか?」から考えていくことも重要ではないかと思っています。
もう一つは、今触れた「どういう世界をつくりたいか?」をどのように考えていくかです。「世界」は本当の意味での「世界」のことを言っているのではなく、「働く環境」、「組織」などに読み替えていただいても結構です。システムを刷新することで、働く環境を、組織をどうしていきたいかをしっかり考える必要があります。
欧米では、長年続いていた「株主至上主義」から、少しずつ「ステークホルダー資本主義」への変化も見られています。語弊があるかもしれませんが、株主のために短期的な売上や利益を追求し、そのための個人成果主義を進めるという形から、従業員、顧客、パートナー、社会、株主など広い意味でのステークホルダーの長期的な利益を追求し、そのためのチームワークや働き方の改善、組織力向上を進めるという形にシフトしていくのではないかと感じています。このような流れもキャッチアップしつつ、「当社としてどういう世界をつくりたいか?」を考え、ITに落とし込んでいくことが重要です。
日頃ITを扱っている人がいきなり経営や組織の在り方まで視野を広げるのは簡単なことではないですが、まずは「現行にとらわれ過ぎない」を意識し、少し視野を広げて「そもそもリプレースで何を目指したいんだっけ?」と自問自答してみることをお勧めします。