松田 幸裕 記
1都3県の緊急事態宣言が、11都府県へ広がりました。全体的に行動が規制されているため、経済へのダメージは大きいですが、感染者数は少しずつ減少してきているようです。ただ、問題はこの先ですね。昨年2月の「今後1~2週間が瀬戸際」の頃から一貫して言えることで、本ブログでも時々呟いてきましたが、「で、この先どうしていくの?」という先のストーリーが未だ見えません。ワクチンがゲームチェンジャーになると考えていることはわかりますが、それも含めて今後どういう指針で、どういうストーリーを描いて策を講じていくのか、明確化してほしいところです。
それにしても、「ワクチン接種状況の管理にマイナンバー活用を検討」という報道には驚きました。システムとして接種状況を管理していくためには、国民一人ひとりを識別するキーとなる値が必要です。そのキーとしてマイナンバーを使おうというのはいたって自然なことですが、、、大企業の経営層が「今度導入する新システムでは、社員テーブルのキーとして社員番号を使え!」と口出ししているような状況と同じなので、「そんなことを言わなければならないような現状なのか…」と驚いてしまいました。日本のITにはまだまだ多くの課題がありそうですね。
今回も前置きが長くなってしまいました。前回の投稿「2021年、ITを俯瞰する その1 ~SIerの衰退は今後進むのか?~」では、新たな年の始まりということで一旦立ち止まって「今、ITで何が起きているのか?」を俯瞰し、技術進化によるSIerの衰退は今後進むのか?について考えてみました。本投稿では、なぜクラウド化など技術が進化してもSI費用は下がらないのか?」について考えてみたいと思います。
「技術進化」と「SI費」の関係性
クラウド化、Software Defined、ローコード開発などの技術進化によって、以前のようにストレージやネットワーク機器、プログラミングなどの職人がいなくても、ITの導入が可能な時代になってきました。複雑な部分は内部に隠蔽され、全体として抽象化された形で扱うことができます。このような技術進化によって、業務システム、情報系システム、ITインフラなどに共通して、IT導入の難易度は下がってきています。
そう考えると、ITを導入する際に外部へ委託した場合、そのSI費は安くなってきているはずなのですが、、、私の周囲ではその流れをまったく感じません。
私の感覚ではなく統計データとしてSI費の相場がどのように推移しているかを確認してみましたが、残念ながら信頼性の高い統計データを見つけることはできませんでした。そのため私の感覚での話になってしまって恐縮ですが、技術が進化して開発や導入の効率化は進んでいるはずなのに、SI費は安くなっている感覚がまったくありません。
本投稿は私の経験からくる仮説が多くなってしまいますが、技術進化とともにSI費が安くならない理由について考察してみたいと思います。
理由1:人材
ITの分野に限らず、各組織で業務の合理化を進める中で、役割の細分化が行われてきました。役割の細分化は分業という意味で良い側面ももちろんありますが、悪い側面もあります。最近ITプロジェクトに関わると、「このプロジェクトのメンバー、なんか多いな…」と感じることが多くあります。それぞれの機能で担当者が異なり、並行して自身のタスクをこなしていきます。一見合理化されているように思えますが、プロジェクトのミーティングへの参加者も多く、プロジェクトリーダーやプロジェクトマネジャーなど全体を取りまとめる立場の人も多くなるため、総合的に考えると膨らんでしまっているように思えます。
以前読んだ「デザイン思考が世界を変える」では、今後のクリエイティブな組織には「T型人間」が必要だと書かれていました。特定の分野を究めつつ、守備範囲を幅広く持てる人材です。こういう人が増えれば、もう少し体制はスリム化できるのではないかと思います。
役割の細分化によって「その領域しかできない人」が増えている今、この形を変えるのは簡単ではないかもしれませんね。
理由2:SIerのリスクヘッジ
最近のITプロジェクトでは、SIerは主に要件定義の前のタイミングで要件定義の詳細見積と全体の概算見積を行い、要件定義後にその後のフェーズの詳細見積を行います。昔は結構粗く見積もっていた記憶がありますが、プロジェクト進行中に要件が追加されたりと、想定外のコストがかかることが多かったため、SIerは自分たちを守るために契約の範囲と見積額を詳細に出すようになりました。詳細に作業見積を出す際、作業項目の一つひとつにリスクを加味し、さらに合計額にもリスクを加味することも多く、作業項目を細かく分類すればするほど見積額が増える傾向があります。
そんなことをしたら競合に負けてしまう、という考え方もありますが、競合他社も同じように見積額を増やしていること、ITは売り手市場が続いてきたことから、競争によって見積額が下がることは少なくなっている感覚があります。
理由3:ユーザー企業の要求
多くの企業では、情報システム部門はユーザー部門より立場が低いのが現状です。そのような環境下で要件定義を進めると、「現行踏襲」という圧力がかかった場になることが多いです。今までできていたことができなくなる、またはやりづらくなると、ユーザーの不満は一時的にでも高まります。そのため、「現行システムでできたことは、新システムでも必須要件ね。」という言葉を明確に発することはありませんが、暗黙の了解として扱われ、現行システムの仕様ありきで新システムの仕様が検討されます。
ずいぶん前から「パッケージを導入する場合は、業務をパッケージに合わせるべし」という格言めいたものがありますが、実際はなかなかそうもいかず、「現行ではこういうことができていたから、新システムもね」というニーズに応えるためにアドオン的なものを追加したり、ニーズに応えるために実現方法を細かく調べて検証したり、という作業が増えることになります。
パッケージやクラウドサービスは、標準的に使用すれば動作も安定し、問題が発生した際もその形で使用している企業が多い分対応されるスピードも速いため、標準的に使用することのメリットは大きいのですが、上記の通りなかなかそうもいかないようですね。
SI費が高いと費用対効果はその分低くなるため、ユーザー企業としてもSI費を抑えたいところだと思いますが、上記のような背景でなかなか抑えるのは難しいようです。ITの相対的な価値を高めることは重要ですので、今後もこのようなテーマに対し考察していけたらと思っています。