松田 幸裕 記
新型コロナウイルスの新規感染者数が、緩やかながら減少してきました。東京都での警戒レベル引き下げ、営業時間短縮の解除などが発表されたことは嬉しいですが、、、今後も対策としては「ハンマーとダンス」しか決め手が無いように思えました。まだまだ長い戦いになりそうです…。
メディアの方は、自民党総裁選の話で持ち切りですね。各所から党員投票実施のニーズが聞こえていましたが、結果としてその声は届かず、党員投票は見送られました。少し飛躍した意見かもしれませんが、このような「周囲の声が届かない意思決定」がされる大きな原因は、野党の弱さにある気がしています。今は国民の選択肢が自民党しかないと言っていい状況のため、森友・加計問題、それに絡む公文書改ざんなどが疑惑として存在していても、また内閣支持率が落ちても、与党としては特に問題はありません。
野党が強くなければ、「いい加減なことをしていたら政権を奪われる」という環境が成り立ちます。そのような状況を作らなければ、健全な政治は実現できません。私たちも、「野党はだらしないから」というだけで思考を止めてしまうことなく、野党に期待し、叱咤激励しながら、野党の動きにも注目し続けていかないといけないのではないか、そう思う今日この頃です。
今回も前置きが長くなってしまいましたが、本投稿では効果的なIT導入に向けた、「シナリオ」の活用について考えてみたいと思います。
シナリオプランニング
ハーバード・ビジネス・レビュー2020年9月号は、「戦略的に未来をマネジメントする方法」という特集でまとめられていました。不確実性が高まっている今、過去の経験に頼り、目の前にある危機を乗り越えることに集中するだけでは不十分で、未来を洞察し継続的に意思決定を行っていく必要があります。本書では、そのための方法論や事例などの情報が整理されています。
この中の論文のいくつかで、「シナリオプランニング」という手法が紹介されていました。シナリオプランニングとは、政治、経済、人物、組織、仕組みなどにおける現状や動向から、未来の社会を動かすロジックを抽出し、そこから複数の未来像(シナリオ)を描くものです。未来は不確実であるため、不確実な要素によってシナリオを分岐させ、それぞれに違った未来を描くことになります。そして描いたシナリオに基づき、意思決定をしていきます。
シナリオの重要性と現状の課題
ここからは経営ではなくITについての話になりますが、上記の特集を読んで、改めて「未来のシナリオ」への意識の重要性を感じました。
現在の一般的なIT計画や導入を考えてみると、シナリオという観点が欠けていて、それによって「導入したが使いづらい」、「導入したが使われない」など、問題が生じている例が多いのではないでしょうか。
例えばグループウェアの領域としてOffice 365やG Suiteを全社的に導入する場合で考えてみます。ある程度以上の規模になると導入ベンダーが導入を請け負うことが多いですが、導入ベンダーとしてのゴールは「製品の導入」です。導入する製品の数々の機能から逆算し、最終的に細かい設定項目を明確にするための設計を行い、その設計につなげるための要件定義を行います。そこにはシナリオという発想は少なく、組織における業務や生産性の考慮というより、導入するための設計、導入するための要件定義になってしまいます。
そうであれば、その前にユーザー企業側で組織における未来のシナリオを描き、それを実現するための要求・要件を定義したうえで上記の導入ベンダー主導の要件定義につなげるべきですが、現実にはそれも難しいようです。どのように進めてよいかわからず、とりあえず利用部門にヒアリングをしますが、「ここが使いづらい」、「こういう機能が欲しい」など細かな要望がたくさん出てきてしまいます。そしてそれらの個別要望と自身が運用上感じている課題を含め一覧化し、要件定義にて反映してもらう程度となってしまいます。
このような形で計画・導入されてしまうと、「制限だらけで使いづらい」、「導入されても使われない機能が多い」など、最適なIT導入とはいえない結果となってしまいます。例えば業務システムでは、現在の業務プロセスを業務フロー図やユースケース図などを使い可視化するため、その流れで改善後の業務シナリオを描きやすいですが、コミュニケーション・コラボレーション基盤やITインフラでは業務フローを定義しづらいため、より前述のような導入に陥ってしまいがちです。
シナリオに必要な「動向や理論の整理」
私たちがITの計画や導入を支援する際に重要視しているのは、「動向や理論の整理」、「現状の可視化」、「未来のシナリオ」です。よく「As IsとTo Be」という言い方をしますが、「現状の可視化」がAs Is、「未来のシナリオ」がTo Beにあたります。その2つを明確にするために重要なのが「動向や理論の整理」です。
例えば、昔に遡って、仮に手紙という通信手段は知っていて、電話という手段をしらない人がいたとします。その人は手紙という手段しか知らないため、「あー、電話があったらいいなー」とも思いませんし、もしかすると手紙という手段に課題すら感じないかもしれません。電話という手段を知ることによって、初めて手紙という手段に課題を感じ、電話という手段がイメージできるようになります。
それと同じで、As IsとTo Beを描けと言われても簡単には描けず、「こういう最新技術がある」、「こういう新しい経営理論がある」などが理解できて、初めて「現状の業務にはこういう課題があったのか!」ということがわかり、「こういうイメージにしたい!」という理想がシナリオとして描けるようになるのです。
この方法は、IT導入における様々な場面で使えると思います。例えばセキュリティ対策。主な流れとして「守るべき情報の定義」→「重要な情報にまつわるリスクシナリオの整理」→「それぞれのリスクへの対策検討」となりますが、「どのようなリスクがあるのか?」、「どのような対策方法があるのか?」がわからなければ検討を進めることはできません。ここでもやはり、重要なのは「動向や理論の整理」になります。これが明確になることによって、初めてリスクシナリオの整理ができ、バランスの取れた対策が導き出されるのです。
現在の業務知識、最新の技術動向、最新の経営理論など、いろいろな知識が必要になるため、1人の力で実現するのは困難ですが、チームとして知識を持ち寄ることによって、困難なことではなくなります。また、常に最新の技術動向や経営理論などをウォッチし、引き出しやすい状況にしておくことによって、迅速かつ柔軟な意思決定につなげることも可能です。改めて、IT計画や導入における体制、仕組みを再考してみることをお勧めします。