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「Web会議で顔を見せること」のプラス・マイナスの影響を再考する その2

松田 幸裕 記


増加を続けてきた新型コロナウイルスの新規感染者数ですが、都府県での独自の休業要請などが功を奏したのか、増加の勢いは止まってきたようです。日本としての長期戦のストーリーが定まらない中、当面はこのような「ハンマーとダンス」を繰り返すしかなさそうですね。

ところで、今年の1月下旬から皆がマスクをするなどして感染対策を強化してきた中、インフルエンザの感染者数はどうだったのでしょうか?

ウェザーニュースの「インフルエンザ患者数 昨年より450万人減 過去5年で最も少ない記録に」という記事でわかりやすく説明されています。今シーズンの患者推計値合計は728.5万人と例年の5~7割に収まっており、時系列グラフで1月以降の患者推計値遷移を見てみると、この時期に絞れば概ね昨年の3割に収まっているようです。直接的及び間接的にインフルエンザによって死亡した人数は毎年約1万人と言われていますので、1~3月のコロナ対策によってインフルエンザに感染して死亡するかもしれなかった数千もの命が救われたとも言えます。そう考えると、現在のコロナ対策の厳格さと、今までのインフルエンザ対策の緩さとでは、バランスが取れていない気もしますね。

今年の秋以降は、海外から感染者が入ってくる割合が少ないこと、感染拡大前からコロナ対策を行っていることから、インフルエンザは流行らない可能性もありますが、インフルエンザについても引き続き注視が必要です。

今回も前置きが長くなってしまいましたが、本投稿では前回に続き、「Web会議で顔を見せること」のプラス・マイナスの影響を考えてみたいと思います。前回は、顔を見せた場合に必要なネットワーク帯域、カメラ映像を送る場合のネットワーク環境における工夫などについて触れました。今回は、非言語コミュニケーションが与える正と負の影響について少しずつ見ていきたいと思います。

目は口ほどに物を言う?

「目は口ほどに物を言う」ということわざがあります。人間が喜怒哀楽の感情を最も顕著に表すのが目であることから、言葉に出さなくても目の表情で相手に伝えることができる、また、言葉でごまかしても、目を見ればその真偽がわかるという意味です。

皆さんも、今までの経験の中でその感覚は持っているのではないでしょうか。言葉を聞いているだけの状況よりも、目の動きや顔の表情が見えた方が、その人の伝えたいことが理解できそうな感覚はあると思います。

この「感覚」が本当に正しいのか、「非言語コミュニケーション」「ノンバーバルコミュニケーション」と言われるコミュニケーションがどういう状況下で効果を発揮するのか、深掘りしていきたいと思います。

誤解されているメラビアンの法則

「人がコミュニケーションをとるとき、相手から発せられる言語の内容である『言語情報』から7%、声のトーンや口調、大きさ、話す速さなどの『聴覚情報』から38%、そして相手のジェスチャーや視線、表情といった『視覚情報』から55%の情報を受けている。」

皆さんもどこかでこの手の話を聞いたことがあるのではないでしょうか。これは、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンによって1971年に著された「Silent messages(邦題:非言語コミュニケーション)」で紹介されたもので、「メラビアンの法則」、「7-38-55ルール」、「3Vの法則」などと呼ばれる法則です。

この法則を根拠として、「言語メッセージよりも非言語コミュニケーションによるメッセージのほうが、影響力が強い」、「メッセージの意味は大半が非言語コミュニケーションによって伝達される」などの話がされることがありますが、、、実はこの法則が示すのは、そういう意味ではありません。

この法則は、「言語情報・聴覚情報・視覚情報の要素が矛盾した内容を送っている状況下において」という前提でのものです。話し手の言葉と態度が一致しない時に、言語情報・聴覚情報・視覚情報のどれを重要視するのかということを検証したものであり、通常の情報伝達での重要度の割合ではありません。

考えてみれば、言語情報が7%というのは違和感がありますよね。対面でのコミュニケーションの重要性を訴えたい人としては、このような自身に都合の良い情報はすんなり信じてしまいがちです。このような確証バイアスが人間にはあることを認識し、得た情報を鵜呑みにせず、「本当か?」と反証することの大切さを、改めて感じました。

伝達度と伝達感

非言語コミュニケーションが与える影響について調べていたところ、以下のような情報を見つけました。非常に興味深い内容です。

インターネット・コミュニケーションと対面コミュニケーションにおける情報の伝わり方の差異についての意見書

ここでは、チャットでの情報伝達 vs. 対面での情報伝達、声だけでの情報伝達 vs. 対面での情報伝達を実験として行い、「伝達度(内容が正確に相手に伝わったか)」と「伝達感(双方が互いに情報を正しく共有できたと感じたか)」の側面で評価しています。

この実験の結果、対面での情報伝達がチャットや声だけの情報伝達に比べて優れているのは「伝達感」であり、「伝達度」は劣るという事実が判明しています。対面での情報伝達はお互いが「情報を共有できた」と感じることはできているものの、実際には文字のみや音声のみの伝達と比較して伝達できていない、ということになります。

文字のみや音声のみの伝達の方が対面よりも伝達度が高い理由については、人間の脳の情報処理機能の特徴によるものと書かれています。多くの情報を同時に処理しなければならない状況は人間の脳にとって負荷が高く、ミスを起こしやすいため、情報を文字のみや音声のみに絞った方が伝達度が高くなるということです。

ここからは上記を踏まえた持論になりますが、私は顔が見えるコミュニケーションの伝達度は、状況によっては高くなると考えています。前述の実験結果が正しいとすると、例えばセミナーなど一方的に何かを説明するような状況では、敢えて顔を見せずに伝えることで、人間の脳の情報処理が円滑に進み情報が正確に伝わると思われます。一方、会議で何かを説明する際や議論をする際は、相手の反応を見ながら「今伝えたこと、あまり理解されていない気がするので、少しかみ砕いて再度説明しよう」、「あまり興味がなさそうなので、この話はさらっと終わらせよう」など、臨機応変に話の流れを変えることは多いと思います。顔が見えない場合、相手が何かを質問したそうにしていることもわからず、沈黙が怖くてついしゃべり続けてしまい、隙を与えない状態にしてしまうこともありますが、相手の表情が見えることでそのようなことを避けられます。

非言語コミュニケーションの特徴を正しく理解し、Web会議を使用する場合も一律に「顔を見せる」または「顔を見せない」とせず、「説明会の場合は伝達度を優先し、顔を見せない」、「ディスカッションの場合は顔を見せる」など、組織としての方針を考えてみることをお勧めします。