松田 幸裕 記
東京都を中心に、新型コロナウイルスの新規感染者数が増大しています。現実的に受け入れ難い「新しい生活様式」、そして具体的な対策が未だ出せない状況が続いています。
「K値」を考案した大阪大学核物理研究センター長の中野貴志教授が、「K値予測に基づくと、7/6週が新規感染者数のピークになる」とテレビで言われており、期待されていた人もいたかもしれませんが、対象は心を持った人間であり、予測は難しいようですね。
7/10に行われた東京都医師会の記者会見で、「新しい概念での社会活動・感染予防」が提案されました。重篤率、致死率が年代別で大きく異なることから、年代別にグループ分けし、メリハリのある行動規範を定義するというものです。
この提言についていくつかのテレビ番組でも扱われ、その際大きな批判的コメントはありませんでしたが、、、この考え方は以前の投稿「新型コロナウイルス対策をデータドリブンの側面で考える その2」で触れた、元厚生労働省医系技官であり医師の木村もりよ氏の考え方と本質的に同じもののように思えます。木村氏の主張に対しては徹底的にたたこうとし、東京都医師会の主張に大きな批判がないこの違いに、伝え方の重要性、受け取る側の心理的バイアスの大きさを改めて感じました。
今回も前置きが長くなりましたが、本投稿では「現代社会で求められるリーダーシップ」について触れたいと思います。
答えのない時代に求められる、リーダーシップの再考
ハーバード・ビジネス・レビュー 2020年7月号は「答えのない時代をともに切り拓く リーダーという仕事」についての特集でした。変化が激しく、答えのない不明確な状況が続く現代に、どのようなリーダーシップが求められるのか、という話です。
各論文でテーマや主張している内容は異なりますが、現代ではすべての人々が個々に自律し、そのうえで協働することが求められています。そのためには、従来のカリスマ型・変革型のリーダーシップでなく、官僚的・統制的なリーダーシップでもなく、全員の自律的な協働を促す何かが必要とされています。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業で半ば強制的にテレワークが実践されました。しかし、今までは近くにいるのが当たり前で、何をしているのかお互いにわかる環境から、上司から部下が見えない環境へと変わりました。管理・統制的にマネジメントを行ってきた上司の中には、「部下が何をやっているかわからない」、「部下の動きが見えないため、人事評価ができない」、「どのように指揮していいのかわからない」などの不安を覚えている人も多いのではないでしょうか。
きっかけはどうであれ、マネジメントやリーダーシップについて再考すべき機会なのかもしれません。
上記では現代を「答えのない時代」と表現していましたが、昔は答えがあったのでしょうか?また、求められるリーダーシップの形は本当に変化しているのでしょうか?
ソニー盛田昭夫氏の古くて新しいリーダーシップ
以前、「ソニー 盛田昭夫 ― “時代の才能"を本気にさせたリーダー」 という書籍を読みました。ソニーの創業者である井深大氏と盛田昭夫氏の一生、そしてソニー自体の長期にわたる変遷がわかりやすく整理されていて、500ページを超えるボリューム満点の一冊です。
この書籍を読んで、いろいろな気づきを得ました。内容は20世紀の出来事で、時代的には古いものなのですが、最近の経営関連の理論を先取りしたようなものが非常に多く、不思議な気持ちになります。
盛田氏は、企業内にはびこる官僚主義を「社内の風通しや情報の流れを滞らせ、企業の問題感知力を鈍磨させ、自家中毒を生む」ものとして、嫌っていたそうです。そして、「上からの命令だから」として指示したり、活動したりすることも嫌っていました。「相互の信頼を欠いた命令からは、進歩はおろか、責任感の生まれる余地もない」として、納得できない状況のまま上からの命令に従って動くという行為をやめさせていました。
もしかすると、求められているリーダーシップは実は不変なのかもしれません。
リーダーシップと人間力
もう一つ、リーダーシップという観点で、私の中で最も印象に残っている記事をご紹介します。2012/7のハーバード・ビジネス・レビューに載っていた、東京理科大学 伊丹敬之教授の「リーダーシップの鍛え方」という記事に書かれていたものです。
リーダーシップとは、組織の求心力となり、方向性を指し示し、そこに人々を、けっして命令ではなく、自分たちの意思によって向かわせることである。それは簡単なことではない。しかも、真のリーダーの資格は、まず、組織メンバーにリーダーとして認められることである。彼らが受け入れて初めて、リーダーとしての影響力を発揮することができる。(中略)リーダーシップは地位や権限によって担保されるものではない。人がついていきたいと思うから、初めてリーダーとして機能する。(中略)あえてリーダーの良し悪しを測るとすれば、「従属する人数」ではなく、打算なしで「支援してくれる人数」によって決まるのではないか。組織メンバーの心に働きかけ、動機づけ、助け、励まし、評価し、報い、感謝することに、日々心を砕いている人がリーダーになれる。
突き詰めれば、リーダーシップを形成するのは人間力ということになるのでしょう。自身の中で信念や大儀を持ち、何が正しくて何が間違っているかを考えつくし、それを言動や行動に反映させている、いわゆる「ぶれない」人に、人はついていくのだと思います。
私自身もまだまだ未熟者ですが、常にこの人間力としての成長を意識し、一つひとつの物事に向き合っていきたいと思っています。
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