· 

新型コロナウイルス問題から「働き方」を再考する その4

松田 幸裕 記


東京都で新型コロナウイルスの新規感染者数が徐々に増加していきましたが、7/2を境に一気に増加し、100名/日を超えてしまいました。全体的にかなり緊張感の緩みが生じていたため、さほど不思議ではない出来事とも言えますが、この先が非常に心配です。

東京都が数値的な判断基準を出さなくなり、そのことに対し「基準がないとわかりにくい」という批判が多く聞こえていますね。

ハーバード・ビジネス・レビュー 2017年3月号 顧客は何にお金を払うのか」にて、USJを立て直した盛岡毅氏の「USJで実践した数学マーケティング ~なぜ値上げをしても来場者が増えるのか~」という論文が載っていましたが、そこでは「主観」と「客観」について触れられていました。ほとんどを主観で判断してしまうと意思決定を誤る可能性が高まるため、データからファクトを知る「客観」が非常に重要になります。しかし、「客観」で担保できるのは6~7割で、総合的な判断に最も重要なのはやはり「主観」になります。

そう考えると、東京都が最終判断としての基準値を出さないことは、間違っていないのかもしれませんね。

前回の投稿「新型コロナウイルス問題から「働き方」を再考する その3」にて、「トランザクティブ・メモリー」について触れました。組織力を高めることはどの組織においても非常に重要ですが、その一つの大きな要素が「組織の記憶力」であり、組織全体としてどれだけ知が蓄積されているかが重要とされています。その「組織の記憶力(知)」において重要なのは、組織の一人ひとりが同じ知識を記憶することではなく、組織内で「誰が何を知っているか」を知っておくことである、という考え方が「トランザクティブ・メモリー」です。個人に根付いた専門知識を組織が効果的に引き出すための「トランザクティブ・メモリー」が、組織の記憶力やパフォーマンスを高める効果があると、確認されてきています。

「ディスカッション掲示板」や「社内SNS」など、社内ITを駆使してこのトランザクティブ・メモリーを創出していきたいところですが、これらのツールが活用されるか否かは、エンゲージメント、社員間の関係、モチベーション、利他的な精神なども大きく影響するため、活性化させて効果を出すことは非常に難しい分野と言えます。

本投稿では、この活性化につながるかもしれない「人と人との関わり合い」について触れたいと思います。

関わり合うことの効果

ハーバード・ビジネス・レビュー2014/6号 最強の組織」の「関わり合う職場が生み出す力」という記事にヒントとなることが書かれていますので、ここで紹介します。

公共哲学にコミュニタリアニズムという考え方があります。豊かなコミュニティが協働や秩序の維持、自由や自律の実現において役割を果たすという考え方です。そこでは、人と人とが関わり合うことの効果を以下のように挙げています。

  • 周囲の人々と関わる中で、他者に対する気遣いやそれに応えようとする想いが生じる。
  • 人と人との関わり合いの中で自分の能力や特徴を理解し、自律につながる。

 

効果1:周囲の人々と関わる中で、他者に対する気遣いやそれに応えようとする想いが生じる

以前の投稿「人間は利己的なのか、利他的なのか その3」で、「己」の範囲について触れました。人と人との関わり合いの中で、自身の「己」の枠の中に自分以外の人も含めることができ、自分を大切にすることと同様に「己」の枠の中に入っている人をも大切に感じることができるようになります。関わり合いの中で相手を一人の、意思を持ち傷つきやすい、自分と同じ人間として見ることができ、相手を尊重し、大切に感じることができるのです。

効果2:人と人との関わり合いの中で自分の能力や特徴を理解し、自律につながる

関わり合いの中で、他者に対する気遣いやそれに応えようとする想いが生じ、関わり合いをさらに活性化させることができます。さらに、関わり合いの中で「自分はこの領域に強いのか!」という認識を持つことができるようになります。自分自身のアイデンティティ(強み、能力、特徴など)を認識できると、強みをさらに磨いてみんなの助けになりたいという意欲が生まれます。そして更に関わり合いが促進、というサイクルが生まれると、豊かなコミュニティが醸成され、協働や秩序が維持され、自由や自律が実現されます。

コロナ禍をきっかけに在宅勤務を経験し、リモートでも仕事ができる環境の導入を進めている企業は多いと思います。その際、効率化や合理化ばかりを考えてしまうと、この「関わり合い」が欠如していき、その副作用は大きくなっていくかもしれません。

社内SNSなどは、導入しただけで効果が出るものではありません。上記のような「関わり合い」を重要視し、組織として仕組みをつくっていく必要があります。そして軸をしっかりと持ち、「仮説・検証」の意識を忘れず、ITも駆使して継続的に可視化と改善を続けていく必要があると思っています。