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新型コロナウイルス問題から「働き方」を再考する その1

松田 幸裕 記


4月7日に発出され、16日に全国に拡大された緊急事態宣言ですが、全国民の努力により新規感染者数が減ったことで宣言が解除されてきており、油断はできませんが北海道や首都圏においてもあと数日で解除されそうです。
 また、5月4日に厚生労働省から「新しい生活様式」が公表されました。さらにその後、自治体や各業界団体から、新しい生活様式に準じたであろうガイドラインが公表されています。厚生労働省からの新しい生活様式に対しフリーアナウンサーの小倉智昭氏が「そんなことは、みんな分かってますよ!」と批判したのが印象的でしたが、各種ガイドラインもその「みんなわかっている」ことを土台に作られているため、「諦めに似た納得感」という形で受け止められている感じがしています。

米外交誌フォーリン・ポリシー(電子版)が5月14日に、「日本の新型コロナウイルス感染対策はことごとく見当違いに見えるが、結果的には世界で最も死亡率を低く抑えた国の一つであり、対応は奇妙にもうまくいっているようだ」と伝えたという報道がありました。しかし、日本人から見ればさほど奇妙には見えないのではないでしょうか。シンプルに考えて、「接触を避ける」ことで感染は抑えられます。そして日本は経済より感染防止を優先し、それを実行しただけです。海外への私の見方が正しいかはわかりませんが、中国は強制で国民を従わせ、1か月で新規感染者を激減させました。欧州は未だ各国で毎日数百人以上の新規感染者が出ているところを見ると、強制しても「接触を避ける」ことが徹底できていないのでしょう。
 日本はお願いベースでもそれに従うことができ、1か月半ほどで新規感染者を3月中旬の低いレベルに戻すことができました。日本の「横並び体質」が功を奏した結果なのか、国としての団結力が強いからなのか、人を思いやる気持ち、利他的な性質を持っているからなのか、原因となる要素はいくつかあると思いますが、日本人から見れば「そりゃ、これだけ自粛すれば感染者数は減るよ」という感覚かもしれませんね。

今回も前置きが長くなりましたが、本投稿ではコロナウイルスに関連して、IT屋として感じる「働き方」に関するトピックに触れてみたいと思います。

企業がテレワークできないという現状が、今回の新コロナウイルス問題によって表面化されてきています。なぜテレワークできないのか?という原因の例として、「ハンコ文化」がメディアで取り上げられることが多いように思えます。確かに「ハンコ文化」は問題のうちの一つだとは思うのですが、、、私はそれよりも根深い問題を感じることがあります。それは、「労働時間」を基本軸として労働を見ている現在の法律の問題です。

現在の労働基準法では、使用者(経営者、管理者等)は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録する義務を負っています。またその方法としては、自ら現認することにより確認すること、あるいはタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することが求められています。
 この規定は過労死などの問題を解決するうえで必要性が高いものですが、一方でテレワークの促進を阻害している要因にもなってきたと思います。人事部門は当然ながら労基法に基づいたルールを策定しており、「今日の午後は自宅にいて、作業の途中で子供の送り迎えもします」というような労働時間管理を難しくするような行為に柔軟に対応できていない場合が多いです。また、情シス部門でIT環境の改善を行う際にも「今のところPCを持ち出すのは営業部門のみ」というように制限をして、そのニーズに限定してアーキテクチャーを検討し、環境構築をしてしまいます。コロナ禍をきっかけに、新しい働き方を想定した法律や制度の見直しも、ぜひ政府として進めていただきたいと思っています。

私たちは日頃情シス部門の皆さんに「今後働き方が大きく変わり、いつでもどこでも働くことができるような人事制度になったとしても、十分に対応できるようなIT環境を今から作っておきましょう」と伝えてきましたが、現状の人事ルールに合わせたIT環境構築に留めてきた企業は多いと思います。今回の新コロナウイルス問題への対策としてとりあえず社外へのPC持ち出しを許可したり、リモートからの社内環境へのアクセスを許可したりという対策を行っている企業が多いと思いますが、問題が落ち着いたタイミングでセキュリティリスクと対策の見直しとともに、今後の働き方を想定しなおし、IT環境のロードマップを改めて策定することをお勧めします。