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アジャイルは開発者に任せておくには重要すぎる

松田 幸裕 記


ここ数年間で、「アジャイル」という言葉をアプリケーション開発以外の分野で目にすることが多くなっています。私がそう感じ始めたのは2016年頃だったと思いますが、まずはその頃に読んだ論文をご紹介します。

アジャイル開発手法はソフトウェア開発の成功確率を高めることに貢献してきたが、今ではこの手法が幅広い業界や部門で取り入れられている、という内容です。アジャイルの手法を採用することで、サイロ化した各部門から社員を引きずり出し、自己管理型かつ顧客優先の部門横断型チームを形成することができるそうです。
 例として、以下のようなことが可能になるだろうと書かれています。

  • 新製品の市場投入による利益が50%増加する
  • マーケティングの新企画で顧客からの問い合わせが40%も増加する
  • 人事部は最も必要とされるタイプの人材を60%も多く採用できる
  • 自分の仕事に愛着を持つ社員の数が2倍になる

この論文の内容に同感です。アジャイルを一つ一つの手法ではなく本質的な観点で見ると、ソフトウェア開発のみでなくクラウドサービスなどの導入にも、さらにIT以外の領域にも有効に活用できるものだと思います。

アジャイル開発にはいくつかの流派がありますが、その中でデファクトスタンダードとも言っていい「スクラム」の起源をたどってみると、おもしろいことがわかります。スクラムはもともと、竹中弘高氏、野中郁次郎氏が1980年代に日本の製造業でのイノベーション手法を「スクラム」と名付けたことが発祥で、それがソフトウェア開発に応用され始め、今の「アジャイル スクラム」となっています。
(竹中弘高氏は、上記のハーバードビジネスレビューの論文を書いている一人です。また、野中郁次郎氏は組織的知識創造の世界的権威です。)
 ここから考えると、アジャイルはもともとソフトウェア開発の分野に閉ざしておくべきではないもの、だということがわかります。

もう一つ、最近読んだデジタル・トランスフォーメーション(DX)に関する書籍もご紹介します。

DX推進における問題点、実現のためのポイントなどが体系的に整理されている書籍で、非常に参考になる内容です。DX推進を検討している方々は、ぜひ一度読んでみていただきたいです。
 この中で、DX推進を機能させる8つの能力について説明されているのですが、そのうちの1つが「アジャイルな作業方式」となっています。DXはシステム開発という狭い範囲でなく、ビジネス全体の変革ですが、そのビジネス変革において反復型のデザイン、継続的な改良を重要視するアプローチであるアジャイルが重要な働きをするため、実践者がアジャイルに習熟する必要があると書かれています。
 アジャイルはDX実践における重要な位置づけとなっています。

これらの文献を見て、私はふと以下の言葉を思い出しました。

「デザインはデザイナーに任せておくには重要すぎる」

これは、IDEOのティム・ブラウン氏が著した「デザイン思考が世界を変える」に書かれていた一文です。ものをつくる際にデザイナーが行っていたデザイン。その時のデザイナーの思考はもののデザイン以外にも有効に活用できるものとわかり、今ではこの手法が幅広い業界や部門で取り入れられています。

同じく、「アジャイルは開発者に任せておくには重要すぎる」といえるのではないでしょうか。
 最近では「アジャイル組織(Agile Organization)」という用語も目にすることが多くなっており、組織開発にアジャイルを活用する動きも出てきています。
 デザイン思考もアジャイル開発も、それぞれの本質をしっかり理解することが重要ですが、そのうえで様々な領域で活用することの効果は大きいはずです。ぜひ深堀りし、多くの領域で活用してみることをお勧めします。