· 

「働き方改革」を再考する その1 ~働き方改革の現状を覗く~

松田 幸裕 記


2016年8月、働き方改革担当大臣として加藤勝信氏が指名され、その翌月に「働き方改革実現会議」が設置されました。もともとIT企業が中心となって啓蒙活動が進められていた「働き方改革」「ワークスタイル変革」ですが、この時期から各企業での「働き方改革」が本格的に促進され、今では多くの企業で取り組みが行われています。

各社における働き方改革の推進状況、効果はどのようなものでしょうか。今年の7月に総務省より公開された「情報通信白書 令和元年版」から、現状を覗いてみたいと思います。

第1部ー第2章ー第4節の 「2-(2) 新たな働き方に必要となるICTの導入と他の取組の組合せ」に、働き方改革の取り組み状況や、取り組みによる変化について整理されています。

まず、「図表2-4-2-7 働き方改革の取組状況」を見てみると、取り組みの上位に位置するのは主に「労働時間」に関するものになっています。休暇取得の推進、労働時間の削減目標設置、労働時間の可視化、ノー残業デーの厳格な実施など、労働時間の削減を実現するための取り組みが多いようです。
 政府が掲げている主要テーマの一つが「長時間労働の是正」ということもあり、各企業の取り組みもその流れに合わせたものになるのは、ある意味仕方ありませんね。ただ、少々取り組み内容が偏っているのは気になるところです。

続いて、働き方改革の取り組みによる変化を見てみたいと思います。同ページにある「図表2-4-2-9 働き方改革施策実施によるプラスの変化(全体・企業規模別)」、「図表2-4-2-10 働き方改革施策実施によるマイナスの変化(全体・企業規模別)」というグラフを見てみると、いくつか気になるところが見られます。

プラスの変化を見てみますと、「労働時間が減少している」、「休暇が取得しやすくなっている」という回答が多いことがわかります。これだけを見れば、働き方改革の効果が十分に出ているといえるのですが、、、マイナスの変化を見てみますと、「人手不足が悪化している」という回答が多いようです。「業務効率化」→「労働時間短縮」という流れであれば素晴らしいことですが、このプラスとマイナスの変化を見る限りは「効率化が十分に進んでいない中で、時間短縮を強行してきてしまった」という可能性は否定できません。仮にこれが企画部門による意図的な流れだとすると、現時点では荒療治の真っ最中であり、まだその荒療治による痛みから脱することができていない状況とも言えます。

また、働きやすさを促進する改革のはずが、「やらされ感が減少している」より「やらされ感が増加している」という回答の方が多いことも気になります。
 リチャード・ライアンとエドワード・デシにより1980年代に提唱された、モチベーションに関する重要な理論である「自己決定理論」では、自己決定(自己の行動を自分自身で決める程度)が大きければ大きいほど、モチベーションも高くなると言われています。やらされ感が増加しているということは自己決定できる環境が整っていないことになり、モチベーションに悪影響を与えている可能性もあるのではないでしょうか。

上記の通り、労働時間が減少していたり、休暇が取得しやすくなっていることは喜ぶべきですが、気になる点も散見されるため、これを見る限りでは手放しでは喜べません。
 快適に、生き生きと働ける環境作りを行ってこその「働き方改革」だと思います。やる気に満ちた中で働くことができ、皆が信頼かつ協力し合い、気付きを与え合い、労働生産性が高まり、利益が増え、各個人の収入も上がり、、、という正の循環を生み出す「働き方改革」であってほしい、そう願っています。