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データドリブン経営の実現にむけて その5

松田 幸裕 記


以前の投稿「データドリブン経営の実現にむけて その1その2その3その4」において、データドリブン経営の実現につながるのではないかと思う要素に少しずつ触れていっています。本投稿では、人間の脳、人間の思考について考えてみたいと思います。

ビジネスインテリジェンス、IoT、ストレージなどの技術進化により、様々なところから鮮度の高い情報を収集し、蓄積し、活用することができるようになってきています。また、データの中に潜む相関関係なども、あぶり出してくれるようになってきています。しかし、データを集めることだけでなく、データによる洞察や創造も非常に重要です。データは何を物語っているのかを見極め、創造力を発揮し、正しい意思決定につなげていく必要があります。
 しかし昨今、洞察や創造のように深く考える行為について、危険な兆候があることもささやかれています。

ニコラス・G・カー氏の著書は深い洞察に富んでおり、私自身も多くの気づきをもらっています。
 この著書に「脳の可塑性(かそせい)」についての話が書かれています。可塑性とは、環境に適応して変化する性質です。昔は、脳は成人になると大きく変化することはないと考えられていましたが、研究の結果、脳は生涯を通じて新たな神経回路の形成が可能であり、常に流動的状態にあり、環境や行動のちょっとした変化にも脳は適応しようとすることが証明されました。
 脳の可塑性でよく事例に使われるものとして、ロンドンのタクシー運転手の脳があります。イギリスの認知神経学者のエレノア・マグワイア氏らが、ロンドンのタクシー運転手の脳を調べました。ロンドンの道路は非常に複雑で入り組んでおり、ドライバーは多くの場所情報を記憶する必要があります。そのような環境で日々運転しているタクシードライバーの脳を調査したところ、脳の海馬が一般の人より大きく、職歴が長いほど脳の神経細胞も多かったとのことです。
 人間の脳には可塑性があり、良い方向にも悪い方向にも変化するということになります。

一方、現代のインターネット社会では、「情報の洪水」と言われるように多くの情報が流れ、溢れています。軽く探すだけでも、多くの情報がヒットします。必要な情報がすぐに見つかる、という意味ではよい社会と言えなくもないですが、前述の「脳の可塑性」の観点で考えると、マイナス面が見えてきます。インターネット社会では、それぞれのテキストを拾い読みさせ、注意をひき、テキストの断片化された部分に注意を向けさせます。没頭を拒み、思考の分断、注意散漫状態を作り出します。
 このインターネットの性質が人間の思考を短絡させ、深い思考、創造的思考を行うのを妨げます。そして、脳の可塑性によって、人間の脳はより浅い思考をする脳へ変化していく危険性があるのです。

情報が容易に手に入る時代。
 しかし、データだけが豊富にあっても、うまく活用できなければ宝の持ち腐れです。最後に意思決定するのは人間ですから。
 やったことがあるから、見たことがあるからといって短絡的に「知っている」と思わず、やればやるほど自分の無知に気付く、いわゆる「無知の知」を大切に、深く知ろうすることが今後重要になってくるでしょう。また、見た情報を鵜呑みにせず、「なぜ?」「本当に?」と深く考えることが重要になってくるでしょう。それによって、データドリブンでの意思決定の品質を上げていくことができるのではないでしょうか。