松田 幸裕 記
ITの新規投資と維持費用の割合はおおむね3:7であり、十分に新規投資に費やせず、運用維持コスト削減が課題と言われています。私がこの3:7という数字を初めて聞いたのは2005年くらいだったと思いますが、今でもこの比率はあまり変わっていないようです。
数字だけ見ると何も改善されていないことになりますが、本当に何も改善されていないのでしょうか?
運用維持が効率化されていないということはありません。仮想化、自動化、一元管理などで少しずつ効率化はされており、一つ一つの作業はかなり楽になっているはずです。
運用のための技術は進化していて、運用プロセスの標準なども確立されてきているのに、運用管理の比率が減らないのはなぜでしょうか?この数字が改善されていない主な要因を、いくつか挙げてみたいと思います。
- ITの複雑化
利便性や高可用性への期待の増加、技術進化などにより、1つのシステムだけを見ても機能の増加や複雑化が進行しています。例えばデータベースサーバーでは、元々は単体のサーバーで日次バックアップ程度だったものが、クラスター構成になり、データがリアルタイムで同期され、など徐々に重厚感が増してきています。さらにそれらのシステムが連携され、依存関係を持つようになり、何かメンテナンスを行いたいと思っても依存関係の調査などで一苦労するようになってきています。
- ITの重要性増大
システムが止まるとビジネスが止まる、と言えるような重要なシステムが増えてきています。このレベルのシステムで何かメンテナンスをする場合、手順や体制の確立、コンティンジェンシープランの検討など、綿密に計画する必要があり、一つひとつの作業量が増大します。また、「どんなシステムも重要」という雰囲気的なものもあり、高可用性を求められるレベルのものでなくても過度に慎重になってしまう傾向もあります。
- IT活用範囲の拡大
ITの活用範囲は時代とともに拡大し、様々な領域でITが使われるようになっています。新規にシステムが作られれば、それ以降はそのシステムを運用する必要があります。システムの数が多くなれば、それだけ運用の負荷も増えます。要は、維持すべきシステムが多くなってしまっているため、いくら効率化しても運用比率はなかなか改善できません。
「クラウドサービス利用費は戦略的活用をしても利用当初から維持費用になるのか?」、「既存パッケージシステムの単純リプレースなどは維持が目的でも新規投資になるのか?」など悩ましい部分はあり、この新規投資と維持費用の比率は今後も参考になる指標であり続けられるのだろうか、という疑問もあります。
ただ、本質的に「ハードのお守り、日々のメンテナンスなどに追われてしまうことで、ビジネスニーズに応えられなくなるという事態から脱するべき」という課題は解決していかなければならないため、今後もこの課題への意識は必要になるでしょう。
私自身も今まで生々しい現場を見てきており、この問題の深さ、改善の難しさは理解しているつもりです。今回の投稿で簡単に解を出せるようなテーマではありませんので、今後少しずつでも自身の気づきを記していけたらと思っています。クラウドが現実化し、オンプレミスでもSoftware Definedが浸透しつつあり、効率化や自動化、可視化のための技術は整ってきています。適切な運用を行い、ビジネスニーズに応えられる仕組みづくりを引き続き考えていきましょう。